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WDA限定研究会「コミュニティデザインの技法を探る - 変容していくコミュニティとの向き合い方」(ゲスト・孫大輔さん)

REPORT
Hikaru Mizunami
2018.11.23
WDA限定研究会「コミュニティデザインの技法を探る - 変容していくコミュニティとの向き合い方」(ゲスト・孫大輔さん)

近年「地方創生」や「コミュニティデザイン」などの言葉が注目を集めています。また、多種多様なステークホルダーが混在するそれらの領域において、フラットな対話の場をつくること目的にワークショップが取り入れられている事例も少なくありません。
 
しかしながら、実際に地域を舞台に実践される方々からは「あまりにも多様な人々で構成される地域コミュニティに、どのような態度や考え方を持って向き合うべきなのか、日々悩んでいる」といったお話を頻繁に伺います。
 

「変化し続けるコミュニティをいかにデザインすれば良いのか?」
「そもそもコミュニティをデザインすることは可能なのか?」

 
それらの問いの探求すべく、2018年10月31日、WDA限定研究会「コミュニティデザインの技法を探る – 変容していくコミュニティとの向き合い方」は開催されました。ゲストには谷根千(東京都台東区の谷中と文京区の根津・千駄木)を舞台に地域を巻き込んだ魅力的な活動を続ける「谷根千まちばの健康プロジェクト(通称:まちけん)」の代表・孫大輔さんをお招きしました。
 

 
具体的な流れとしては、まずは孫さんがコミュニティと向き合う上で大切にしているポイントをお伺いしていきます。また、孫さんからの話題提供をうけて、ミミクリデザインのリサーチャー・東南裕美から「実践共同体」を切り口とした要点の深掘りが行われ、最後にはパネルディスカッション形式で会場全体の意見も集めながら、理解を深めていきました。
 

孫大輔(東京大学・医学教育国際研究センター 講師、一般社団法人みんくるプロデュース代表理事、谷根千まちばの健康プロジェクト(まちけん)代表)

大学では主に医療コミュニケーション教育に従事。現在、教育・研究とともに、家庭医としての診療も続けている。2016年より「谷根千まちばの健康プロジェクト(まちけん)」というコミュニティプロジェクトを開始。映画、即興劇、マインドフルネス、ダイアローグなどさまざまな手法で人々のウェルビーイングを向上するプロジェクトを実践している。2018年4月から映画学校ニューシネマワークショップ・クリエイターコースに在学中。主な著書「対話する医療:人間全体を診て癒すために」(さくら舎)。

 

東南裕美(株式会社ミミクリデザイン Director / Researcher)

東京大学大学院 情報学環 特任研究員。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士前期課程修了。山口県出身。在学時より人間の行動変容や組織マネジメントに関心を持ち、NPO法人の立ち上げと経営に参画。地元山口に帰省した際、地域コミュニティのあり方について問題意識を持ち、現在は学習論と組織論の観点から「まちづくりに人が参画する過程」についての研究を行っている。ミミクリデザインでは、人材育成プロジェクトのマネジメント、地域活性化プロジェクトのリサーチを担当している。

 
 

孫さんが“谷根千の健康”をテーマとした理由

まずは話題提供として、孫さんの活動とまちづくりに対する姿勢をお話いただきました。昔ながらの下町風情を感じられるまちとして知られる谷根千。その歴史的背景を紐解くと、地域開発も比較的進まず、東京大空襲からも逃れた背景があり、江戸・明治の文化が今もなお残っている点に大きな特徴がある、と孫さんは話します。
 
孫さん自身が谷根千に関心を持ち始めたのは、1984年創刊の地域雑誌『谷中・根津・千駄木』の著者のひとりである山崎範子さんと知り合ったことがきっかけでした。東京大学医学部倫理委員会の承認のもと行われた谷根千に対するアクションリサーチ(CBPR。住民・市民参加型の地域課題解決)を続けるなかで、谷根千が持つ豊かな文化に驚かされた、と孫さんは話します。そして谷根千に興味を持つうちに、意外と取り組まれていなかった「健康」について何かできることはないかと、活動を始めたそうです。

 
 

失われつつある谷根千の『ソーシャル・キャピタル』

谷根千の「健康」を考えていく中で、孫さんが着目したのは、“ソーシャル・キャピタル”という概念でした。ここではソーシャルキャピタルを「信頼を軸とした人の繋がり(あるいはそれを内含する構造的なもの)」と定義した上で、孫さんは「銭湯」を例に挙げながら、谷根千におけるソーシャル・キャピタルの喪失に危機感を覚えはじめた、と語ります。
 

 地域住民のある方から、銭湯が地域のコミュニティとの接点として機能していた話を聞きました。その方はちいさな子供と一緒に銭湯に通っていたのですが、銭湯のおばあちゃんが、子供の面倒を見てくれたり、子育て相談に乗ってくれていたんですね。でもある日その銭湯が潰れてしまった。潰れた後、その方はかなり困ったそうです。銭湯行ってた時は保育園に通う必要もないくらいだったのに、銭湯がなくなってしまったので、保育園に入るか、別の銭湯に行ってみるか、選ばないといけなくなってしまいました。その話を聞いて、銭湯という場所がいかに多機能に生活の健康を支えていた場所だったのか、知ることができました。

 
他にも、銭湯が一軒潰れると、近くの別の古い旅館も潰れたりすることもあったそうです。そうした事例をはじめ、地域の住民たちから様々な話を聞くうちに、銭湯が地域のエコシステムの重要な一角を占めていることや、見かけの機能以上に重要な役割を担っていることに気づかされた、と孫さんは話します。また、銭湯以外にも、谷根千にある代表的な構造的ソーシャル・キャピタルとして「古民家」「寺社」「路地」「市民活動(芸工展など)」が挙げられていました。
 
 

谷根千のソーシャル・キャピタルを守る取り組み

「谷根千のソーシャル・キャピタル(人々のつながり)の喪失の危機に対して、自分にできることは何か?」と考えた孫さんは、10人ほどの仲間とともに、自分たちで屋台を作って、まちを練り歩くことをはじめました。コーヒーなどを売り歩き、まちの人たちに話しかけて、時折「実は医師なんですよ」と種明かしをしながら、軽い健康相談のようなコミュニケーションを続けたのだそう。そうした活動を2週間毎日続けてみたところ、徐々に交流が広がっていきました。
 

 “がん検診を受けてない人が多い地域に検診を受けさせよう”というような直接的な取り組みも大事なのですが、僕らの場合は、目的やターゲッティングはあまり考えなかった。「面白そう!」とか「交流の幅が広がりそうだからやってみよう!」という精神で、とにかく楽しんでやっていました。そうすると、健康や医療には全く関心がないけれども、屋台には興味のある地域の人が、ふらっと話しかけてくれるようになりました。そんなふうに違うクラスタの人たちとつながっていって、活動メンバーも50人弱にまで増えていきました。

 
さらには、まちけんに関わっていた医師や看護師と、谷根千で漢方薬局のお店を構える“地域のお医者さん”たちとが繋がった結果、地域の人々が身近に健康面の相談ができる場が生まれました。他にも「まちけんダイアローグ」「プレイバックシアター(サイコセラピーの効果を持つ即興劇)」といった、ワークショップ型の交流の機会も設けられたこともあり、「人数が増えてできることが増えました」と嬉しそうにお話しする孫さんが印象的でした。

 
 

コミュニティと自分。お互いの変化の過程を楽しむ

また、現在まちけんが精力的に取り組んでいる活動の一つに「映画制作」があります。はじめは少人数の映画上映会をやっていたものの、意外とコストがかかることがわかり、そのうち自分たちでも作ってみることになったのだとか。はじめはなかなか上手くいかなかったことから、もともと少しばかり映画作りに興味のあった孫さんが、“思い切って”週に一度映画学校に通い始めたのだそうです。そこで一通りノウハウを学び、クラウドファウンディングで資金を集め、制作に必要な準備を整えていきました。
 

 良いシナリオを公募で募集して、優秀な映画スタッフを連れてきて、作る…というのは少し違うなと思っています。これまで2、3年かけてつくってきた地域の人たちとの関係性を活かして、協力してくれるお店や人々の助けを借りながら、できるだけ自分たちの力で作りたい。そして、映画制作のプロセスのなかで、さらに多くの地域の人を巻き込んでいきたいですね。地域の人と一緒に作っていく感じを大事にしています。もしかしたら失敗してしまうかもしれませんが、そこも含めてプロセスを楽しむということを大事にしていきたいです。

 
最後に話題提供のまとめとして、今回のテーマ「変容するコミュニティとの関わり方」について、孫さんは“変化を楽しむ姿勢”に再度触れながら、このようにお話しされていました。
 

 地域にどんどん関わっていくと、関わるこちら側も変化せざるを得ないのだと常々感じています。最初は、地域の課題を解決しようと意気込んでいても、関わるうちに、地域の人たちはもう充分に課題に対して熱心に取り組んでいることがわかってくる。課題解決なんて実は僕らにはおこがましくて、何かできるとしたら、対等な立場でコラボレーションしながら、(自分の専門である)健康の側面から支援することくらいかな、と。
 
まちけんプロジェクトも3年ほど続けてみてやっと少し知られてきたので、これから僕らもどんどん変わりながら発展していきたいですね。そして、谷根千という地域や、そこに住む人たちとのつながりが、深まったり多様化すること自体がすごく楽しいという気持ちがいつも根底にはあります。この活動がなかったら映画学校にも通ってないですし(笑) そんなふうにお互い変化していくことを前提に楽しんでいくのが、地域との関わり方なのかなと思います。

 
 

コミュニティの変容を実践共同体の観点から探求する

これらの話題提供を受けて、後半からは「まちづくりに人が参画する過程」を研究テーマとするミミクリデザインのリサーチャー・東南裕美から「実践共同体」をキーワードとしたコメントがあり、それをもとにディスカッションが行われました。

まずは東南から、実践共同体に関する説明がありました。実践共同体とは、特定のテーマに対して関心のある人たちが集まり、その分野への知識技能を継続的に学習していく過程を中心に取り扱った理論のこと。コミュニティの在り方はもちろんのこと、関わる人の個人的なアイデンティティの変容について扱うこともあるのだそうです。
 
東南が修士過程で研究テーマとしたのは、「地域のコミュニティに関わる人の行動変容と、それがどのようにまちづくりの促進につながっていくのか」について。そして研究の結果、地域活動に新しく関わる人の多くが、最初からまちづくりに興味を持っていたわけではないことががわかってきたと話します。まさしく孫さんがそうだったように、まずは個人的な“小さなやってみたいこと”があり、それをきっかけとして徐々にまちづくりに参画し始めるケースが多いのだと、語られていました。東南はそれらの学術的視点と孫さんのお話を織り交ぜながら、変化に対応しやすいコミュニティであるためには、コミュニティに古くから属している人が、新参者が持ち込む変化に対して寛容であることが重要なのではないか、との仮説を示していました。
 
 

パネルディスカッション

最後に和泉や参加者のみなさんも含めて、パネルディスカッションが行われました。

 

参加者 様々な活動ができる場を整えることが大事だとお話しされていましたが、他に何か大事にしている事とかあれば教えていただきたいです。
 
   そうですね。環境の整備は大事にしています。それから、関わる人が増えるほど僕自身が全員と密接に関わることがが難しくなってくるのですが、中にはしばらく顔を見せないと怒られることがあったりします。不義理をしたら、ちゃんと叱ってくれたり。(まちけんでは)地域の人に顔を見せることをすごく重視していますし、そういう場や人たちから本当に重要な情報が得られることもあります。SNSだけのコミュニケーションではどうしても無理がある。地域の人が大切にする食事会などの場に出向いて、コミュニケーションをとる姿勢が大切だと感じています。
 
 和泉  話を伺っていて、単純に会うことが大事なのではなく、「まちけんの人たちが会うことを大切にしているコミュニティだから」という視点が重要だと思いました。おそらくコミュニティにいる人の質が異なれば、何を大切にするのか、ポイントも変わってくると思うので、それを見極める目や嗅覚が重要なのでしょうね。
 
参加者 人々の価値観に寄り添うことが大事ということですよね。ありがとうございます。

 

 東南 コミュニティの変容に合わせて自分も変わっていくというお話でしたが、まったく何もデザインしないとなると、そのコミュニティがコミュニティである必要性がなくなってしまうように感じます。「デザインしすぎないコミュニティをどうデザインしていくか?」について、このまちけんの具体的な事例をもとに、もう少し掘り下げてお伺いできればと思っていますが、いかがでしょうか?
  
   「地域の課題を解決しよう!」というような大上段な関わり方をしないように心がけていると、逆に、他の人からは「自己満足に見える」と言われることもあります。どういうやり方が良いのか、実は僕自身もはっきりとわかっているわけではありません。それに、僕が率先してアクションを起こすというよりも、後から参画するメンバーたちが熱心に話すやりたいことを「じゃあ、やってみますか」と受け入れることも多くて、その場合は全体のマネジメントをしながら、後付けでも良いので一貫性を見出していきます。まぁ、そのうち僕も少しずつ巻き込まれて、いつのまにか楽しんでやってるんですけど(笑)最初から大きな目的を掲げるのではなく、小さな自己実現をまず支援して、そこから広げていく活動が好きなのかな。
 
 和泉 (研究会の)打ち合わせでお話を聞いていて面白いなと思ったのは、孫さん自身は結構インドア派なんですよね。最初は「屋台引いて街中を歩き回るなんて…」と、ちょっと後ろ向きだった。でも、孫さんの周りの仲間には、そういうことを楽しめる人たちがいて、孫さんはそういう人たちのマネジメントや、その人たちが突発的に始めた活動を後から意味づけし直して、整えていくことが上手だったそうなんですよ。そんなふうに自分とはタイプの違う人の活動や、一見本来の趣旨からずれたような姿勢もある程度許容することで、活動の幅を広げている。地域の取り組みに限らずとも、そうした余白の作り方は、コミュニティデザインの重要なポイントなのだろうと感じました。

 
 

「地域」をこれからさらに深く捉えるために必要な視点とは?

最後に登壇した東南と孫さんからまとめのコメントを頂きました。
 

 東南 複数のコミュニティの重なり合いと、コミュニティの変容について、さらに知見を深めていきたいと思わされた研究会でした。また「特定の地域の事例が他の地域にどこまで応用可能なのか?」という問いに関しては、私も非常に気になっています。今回のまちけんの事例と、コミュニティからまちづくりに発展した他の事例を比較した時に、重なるところもあれば、違うところもあると思います。それをもう少し分析して、多くのコミュニティにとって、活動に参画するメンバーの自己実現を支援しながらも、コミュニティも良くなっていくためにはどうしたらいいのか、引き続き考えていきたいですね。

 

  孫 (研究会を通して)新しい視点を色々もらったなと思っています。寛容性や自己実現というキーワードが出ていましたが、まちけんの事例を話しながら、自分がそういう支援を続けてきたことを改めて実感しました。確かにまちけんのモデルが全ての地域に応用できるわけではないとは思いますが、屋台の取り組みのような、多機能的で、目的を定義しきらない活動が、いろんな意味で活きるのかなと感じています。まだ分析が必要ではあるものの、最終的には僕も論文を書こうと思っています。…現時点だと結論が「映画つくりました!」となってしまいますが(笑) 今後深めていけたらと思っています。

 
今回の研究会では「実践共同体」という切り口から、まちづくりにおける主体性の促し方やコミュニティへの向き合い方の変化について考えていきました。高尚なビジョンを振りかざすのではなく、「目の前の人の小さな自己実現を支援したい」という極めて原始的で人間らしい思いに満ちた活動を愚直に続けようとする孫さん。個人的には、そうした打算的ではない態度が、まちけんの他のメンバーや地域の人々の「協力したい」という気持ちを促したのだろうと想像するとともに、「それではその楽しさの源泉はどこからくるのだろう?」や「孫さんのように、目の前の人との活動を楽しむためにはどうしたら良いのだろう?」といった新たな問いがじわじわと生まれてきました。きっと、「楽しみ続ける」ためにも、日々努力していることや工夫されていることがあるのだろうと予感しつつ、次の機会があれば、ぜひその辺りについてもお伺いしていければと考えています。

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