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単発で終わらせないワークショップデザイン-持続的な学びをいかにファシリテートするか【イベントレポート】

REPORT
Hikaru Mizunami
2018.03.09
単発で終わらせないワークショップデザイン-持続的な学びをいかにファシリテートするか【イベントレポート】

組織内で「学び」を持続させていくために

 

「開催したものの、一回限りで終わってしまった」 「ワークショップ中は議論が活発になるが、普段の職場に戻るとその空気が失われてしまう」

 
組織の中でワークショップを実践されている方と話していると、このような声をよく耳にします。
 
ワークショップで生まれた成果やインパクトをその場にいる人だけのものにしないためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。そうした問いを背景として、2018年1月30日、公開研究会「単発で終わらせないワークショップデザイン-持続的な学びをいかにファシリテートするか」は開催されました。
 
今回の研究会では、ゲストにミミクリデザインの外部パートナーである舘野泰一助教(立教大学経営学部)をお迎えし、舘野先生が専門とするリーダーシップ教育的知見をお借りしながら、組織内でのワークショップにおけるより有効な考え方や手法について考えを深めていきました。
 
まず前半に弊社代表の安斎と舘野先生による話題提供があり、後半では参加者も交えてパネルディスカッションを行いました。司会進行はミミクリデザインの和泉が務め、会場の東京大学本郷キャンパス福武ホールにて約60名の方にご参加いただきました。

 

話題提供①:「どうすれば『単発』を越えられるのか?」

そもそも「単発で終わらせないためのワークショップデザイン」はどういった場面で重要となるのでしょうか。安斎は、「たとえ単発のワークショップであっても、事前に設定した目的が達成されているのではあれば当然価値がある」とする一方で、「それでも単発のワークショップでは、達成できる目標レベルに限界がある」とも指摘しています。つまり、まずは自分たちが何のためにワークショップを行うのかを確認し、それに応じた適切なスケールのワークショップをデザインしていかなくてはいけません。
 
そうした前提を踏まえた上で、連続的でスケールの大きなワークショップをデザインしていくための、具体的なメソッドの話へと移っていきました。今回安斎は「プロジェクトをデザインする」「ワークショップの”周辺”をデザインする」「記録を活用する」という三つの切り口から、論を展開していきました。

 
半年や一年といった長い期間の中でワークショップを数回実施していく場合、各回のあいだに時間的な空白が生まれることになります。優れたワークショップデザイナーであれば、当初に定めた目的を見据えつつも、その空白を埋めるように、有効な施策を様々な角度から打ち出していくのでしょう。そうした自由度の高さこそが、単発で終わらないワークショップをデザインしていく怖さであり魅力といえるでしょう。

 

話題提供②:「『個人の能力開発』と『組織の風土づくり』の両立するための仕組みづくり」

続く舘野先生による話題提供では、「研修転移研究」と経営学部の一年生を対象とした必修科目である「Business Leadership Program(BLP)という二つの観点から、「組織にとって持続的な学びを生み出すためには、学ぶ主体である個人とその個人を取り巻く組織の両方を変えていく必要がある」といった内容を主とした話題提供がされていました。
 
「研修転移研究」とは、「研修で学んだ内容がどれほど現場で活かされているか(転移されているか)」を扱う研究のことを指します。その知見によると、「研修で学んだことの60~90%は、職場で実践されていない」のだとか。この転移率を上げていくことが、現場で活きる「持続的な学び」につながると考えられています。

転移の割合は「人」「時間軸」という二つの要素によって大きく変化します。中でも研修で学習された内容が実際の業務に転移されるためには、「『研修前』の『マネージャー』の働きかけ」が最も大きな影響力を持つとされています。すなわち研修の内容が現場に活かされるかどうかは、個人の資質だけの問題ではなく、個人を取り巻く組織の在り方にも大きく左右されていることが明らかになっています。
 
「個人の能力開発」「組織の風土づくり」が学びの影響力を高めるとした舘野先生の考えは、自身が中心となって立教大学で運営している『Business Leadership Program(BLP)』でも活かされているのだそう。BLPは経営学部の一年生を対象とした授業カリキュラムであり、昨年以前の履修生である上級生が授業の運営を担うという特徴的な授業体制が敷かれています。つまり、授業を受ける一年生だけでなく、上級生もまたより良い学びを生み出す組織づくり・風土づくりについて考え、試行錯誤し続ける「学習者」であることが求められているのです。そうしたシステムによって「個人」と「組織」の両方がポジティブな変化を続けていくための土壌が耕され、結果として持続的な学びが生み出されているのだとお話しされていました。

 

パネルディスカッション:「やる気のない人をやる気にさせられる?」

続いて、参加者を交えてのパネルディスカッションへと入っていきました。話題提供を終えたタイミングで参加者から質問を募り、それに答えるかたちで、進行していきました。その中でも、学習者のモチベーションにまつわる以下のやりとりが印象的でした。
 

参加者
学習コミュニティをデザインすることで、モチベーションが低い人をアクティブにすることは可能なのでしょうか?また、どうすれば可能になるのでしょうか?
安斎
実践のための共同体というのは、与えられたタスクにみんなで取り組むワークショップとは違って、もっと多層的に役割や参加の軌道が多様に確保されているのが特徴的といえます。むしろ、そうした緩さを持っているのが良いコミュニティなのではないかと思っています。「アクティブな人」と言っても、毎回参加するタイプのアクティブな人もいるし、月に一度しか来ないけれど、他の人とは違う考え方を提供してくれるようなアクティブさを発揮してくれる人もいる。そのように多様な在り方が許容されていることが重要で、それができる環境を用意することがコミュニティデザインのポイントなのかな、と思いますね。
舘野
例えばオンラインコミュニティを運営している時、一回もコメントしない人がいたとしますよね。でも、その人はやる気がないのかと言われると、よくわからない。そういう人がいてもそれはそれでいいよねっていう雰囲気があって…。どう回答していいかわからないけど、むしろ、「良いコミュニティを作ってみんなが活性化してやるぞ!」と全員が熱くなってしまうのも、排斥するような空気になって逆に良くないこともあるので。
安斎
この問いって二つ話せることがあると思うんですよね。僕がさっき答えたように、いろんなアクティブの形があるのがコミュニティの良さだよね、というのも一つの回答。だけど、もう一つ論点があって、「そうはいってもやる気のないヤツをやる気があるようにはできないよ」っていうモヤモヤもあるじゃないですか。
舘野
「やる気がない」っていうのが、本当にその人の「やる気」の問題、つまり心の問題なのかっていうのは思いますね。学生のグループワークでも、前期はみんなの中心として頑張っていた子が、次の秋学期でのグループワークでは人任せになってました…ということはよく起こるんですよ。その子自身にももちろん何か原因はあるんでしょうけど、それとは別に、どういう状況に置かれちゃうかによって人って全然変わってしまうんですよね。なので、個人と環境の両面を理解しておく必要がある。本人のやる気のない気持ちをどうしようと考えるよりも、その人が活躍するシチュエーションを作るという発想を持てるかどうか。その人を良く見て、力が発揮されやすい状況を発見するっていうのがあると思う。
安斎
教育学でも「学習者のやる気がないのは誰のせいなのか?」という問題では、立場によっていろんな意見がありますよね。個人なのか、先生なのか。それとも別の要因なのか。
   
 
パネルディスカッションを終えたのち、最後に登壇されたお二人から一言ずつまとめの言葉をいただきました。
 

舘野さんが転移についてお話していて、「なるほど、転移からこのテーマを語るのか」と思って面白かったです。学習転移(Learning Transfer)は、学習科学とか認知科学ではとても根深い問題なんですよね。なぜかというと、ここが保証されてなければ、研修どころか学校教育が否定されてしまう。教室で学んだことが教室の外に転移しないとしたら、学校の意味がなくなってしまう。にもかかわらず、どうすれば転移を促進できるのかについてはまだきちんと研究されていないんですよ。同様にワークショップの非日常な状況で学んだことを日常にどう転移してもらうかということも全然研究されてない領域なので、とても考えさせられまして。これまで僕はワークショップの内側にいる自分が、外側にどう影響を与えるかという視点から語ることが多かった。だけどそれだけではなく、外側から見た時に、ワークショップをどう活用するかだとか、日常の中でワークショップをどう位置づけるのかとか、外側から見たワークショップデザイン論を語る必要があるなと感じた。内側からの視点だけでは、ワークショップデザインを語るのにちょっと論が弱いなということに今日気づかされました。(安斎)


 

今日のテーマって「これからの教育とは何か?」と同じくらいの深さが実はあるんですよね。「学んだことが次に活きる」というのは、そうであるべきと思うんですけど、研究的には「本当なの?」とも思う。もはや「教育そのものをもう一度考える」みたいなテーマにしてしまったなと思った。だから、綺麗な話としてまとめるよりも、ある種、もやっとしたところをみなさんと議論したいなとは思っていました。   「個人の学びを促進させていく」ことと「周りの環境を作っていく」ことの両輪を回していける人が実は組織を支えてる人なのかもしれないと、今回の研究会を通して気づかされたんですよね。そんな働き方をしている人たちが必ずどの組織にもいるんじゃないかという気がしていて。その人たちがどんなことを考えていて、どういう塩梅で普段仕事をしているのかを研究的にこれから明らかにしていくことができれば、それは結構面白そうだな、と。いろんな発見のある面白い研究でした。ありがとうございました。(舘野)

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