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ワークショップで獲得される身体知 vol.1 曖昧さ耐性

ESSAY
Hikaru Mizunami
ワークショップで獲得される身体知 vol.1 曖昧さ耐性



○前の記事
ワークショップで獲得される身体知 vol.0 はしがき


曖昧さ耐性とは?

本シリーズでは、ワークショップに長期的に関わることで獲得可能なのではないか?と思われる身体知を仮説的に提唱・紹介していくことを目的としています。納得できるかできないかはあなた次第…



初回となる今回のキーワードは「曖昧さ耐性」。もともとは心理学の用語で、その名前からもわかるように、“曖昧な状況にどれだけ耐えられるか”を示す性質だとされています。



そんな曖昧さ耐性ですが、当然個人差があります。曖昧さ耐性が高い人もいれば、低い人もいます。曖昧さ耐性が高いと、曖昧な状況を好ましいものとして捉えようとするようになり、例えば不慣れな環境に突然置かれても、短時間で適応しやすいのだそうです。逆に曖昧さ耐性が低いと、白か黒かを決めつけなければ気がすまない、二元論的で偏った態度を取ってしまいがちになるのだそう。また、環境に対して不適切な行動や反応をしてしまうようになる傾向が強いのだと言われています。



今回の記事では「ワークショップに参加することで、この曖昧さ耐性がひょっとしたら知らず知らずのうちに上がっているのではないか」という仮説を切り口として、ワークショップにおける学びについて新たな視点を模索していこうと思っています。




ワークショップという曖昧な活動

突然ですが、ワークショップという活動の中で、「事前に知らされないもの」はいくつあるでしょうか。ワークショップに参加したことのある人は、その時のことをゆっくり思い返して、考えてみてください。会場に入り、会場を出るまで。どんな人がいて、どんな活動をして、どんな学びを得たのか。



ーーどうでしょうか?



きっと、キリがないほどあると思います。
例えば、席順。ワークショップではほとんどの場合席順は決められておらず、好きな席に座っていいと言われます。そしてたまたま同じ近くに座った人たち同士でグループを組み、活動に取り組んでもらいます。



例えば、活動。ワークショップでは現実には存在しない製品や空間を考えたり作ったりしますが、そのお題が事前に知らされることはまずありません。活動をする上でも、ファシリテーターから具体的に「これを作れ」と見本が見せられることもまずありません。グループごとに多種多様な作品が生まれますし、それが良いのか悪いのかすら誰も教えてくれません。



例えば、学び。ワークショップでは終盤にリフレクションといって、作品づくりに熱中しながら考えたこと・感じたことを思い返して、「自分がどんな学びや気づきを得たのか」を省察する時間が与えられることが多くあります。しかし、ともに活動する人が違えば、出来上がる作品も異なります。そうなると得られる体験自体人によって異なるため、当然それにともなう学びも参加者ごとに異なっています。参加する前には思いもよらなかった気づきが得られることも珍しくありません。



考えれば考えるほど曖昧な要素が出てきます。また、そうした曖昧さに晒されるのは参加者だけではありません。ワークショップをデザインし開催するファシリテーターの方も、どんな参加者が集まるのか、その参加者たちがどんな作品を生み出すのか、そして何を学びとして持ち帰るのか、まったく未知数のままワークショップに取り組むことがほとんどでしょう。参加者もファシリテーターも、そうした曖昧な状況の中でよりよく活動していくためには、自分なりに何かしらの軸を持ってさまざまな判断をしていかなければいけません。




曖昧さの意義

苅宿俊文さんらの著書「ワークショップと学び1」によると、ワークショップでの学びとは、すなわち“アンラーニング”による学びだと言われています。アンラーニングとは、生活のなかで“身についてしまった”固定観念やくせ・態度を意識的に捨て去ることで学びを得るという学習行動のことだと言われています。



そして重要なのは、ワークショップはあくまでアンラーニングの場でありラーニングの場ではないということでしょう。それまで持っていた固定観念や先入観は捨ててもらうけれども、かといってその空白を誰かが埋めてくれるわけではありません。その空白は、何が正解かわからない”曖昧な”状況のなかで、正解と思しきものを自力で新たに見つけながら、埋めていくしかないのです。



言うならばワークショップとは意図的に曖昧な状況を作り出し、その中で自分なりの意味や学び、答えを見つけていく活動ということになります。そして、そのような経験を積み重ね、曖昧な状況に身を置き続けた人の曖昧さ耐性が上がるのは、とても自然なことのように思えます。



技術の急速な発達や国際化などの影響から、「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在しない職業に就くだろう」とまで言われるほど、社会の変化の流れはますます早く、大きくなってきています。そしてそれは社会全体が不安定さ、すなわち曖昧さを増してきているとも言い換えられます。そのような世の中を生き抜いていくためには、曖昧さ耐性を上げながら、自分なりの芯を持って行動していくことが求められます。そして、ワークショップの“学び”がそこに寄与していく可能性も大いにあるのではないのではないでしょうか。


参考文献

ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ
山内祐平 森玲奈 安斎勇樹(慶應義塾大学出版会, 2013)
曖昧さへの態度の多次元構造の検討 ― 曖昧性耐性との比較を通して
西村佐彩子(パーソナリティ研究 15(2), 2007)
ワークショップと学び1
苅宿 俊文‎ 高木 光太郎‎ 佐伯 胖(東京大学出版会, 2012)

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